福丸温泉旅館

 
 浴室へと降りる階段のあたりで、すでにかぐわしい硫黄の匂いと、ごうごうという地鳴りのような源泉をかけ流す音が聞こえてくる。それを聞いて心を踊らさない温泉好きはいないだろう。
 
 福丸温泉旅館。人里離れた山あいの渓谷に忘れ去られたようにぽつんとある、ひなびた一軒宿だ。この福丸温泉旅館の変わっているところといえば、それは、この旅館が、温泉を愛する人の前に気まぐれのようにしか現れない摩訶不思議な旅館であるということだ。
 つまり、もしもあなたがそれほど温泉を愛していない人であったならば、あなたは福丸温泉旅館の看板さえも見つけられない。あなたの前には現れないのだ。でも、あなたがもし温泉を心から愛する人で強運の持ち主であるならば、福丸温泉旅館の看板はあなたの前にひょっこりと現れるかもしれない。あなたはその看板を見つけて、その脇のちょっとした山道を登っていくことになる。
 そうして、霧が立ち込めるブナの森の中をしばらく行くと、あなたの前に福丸温泉旅館が、まるで萩原朔太郎の猫町のように忽然と姿を現わすはずだ。
 
 

 
 
 もう何十年も前から風雪に耐えながらそこにあることを物語る古びた木造の建物といい、長い時間が染み込んだ建物が放つ濃厚なオーラといい、それでいながら、夢か幻のような儚ないベールにも包まれているような、浮遊感のある佇まい。
 あなたは、決して建て付けがいいとはいえない玄関を開ける。こぢんまりとした土間があって、上がり框にはスリッパがきれいに並べられてある。辺りには飯が炊けたうまそうな匂いが漂っている。ごめんください。誰もいない廊下の奥に向かってあなたは呼びかける。すると、ちょっと浮世離れしたような物静かな女将が現れて、口数少なく部屋に案内してくれる。テレビも置いてない。携帯電話は圏外だ。旅籠の部屋の原型のような素っ気のない部屋。でも、なんだか、かつて自分がそこで過ごしていたような甘やかな既視感に包まれて不思議と心が落ち着く。そんな部屋だ。
 
 夕食まで、まだ時間があったので、あなたはまず風呂へと向かう。内湯のみの福丸温泉旅館の浴室は、渓谷の川と同じ高さにあるため、かなり長い木の階段をミシミシと踏みしめながら降りていく。そこであなたはごうごうと鳴り響く、あの湯の音を聞くことになるのだ。
 
 

 
 
 脱衣所で剥ぎ取るかのように服を脱ぎ捨て、はやる心を抑えて浴室の扉を開けると、あなたの目に、見たことのない光景が飛び込んでくる。古びた木の樋の湯口から、源泉が激しく噴き出していた。それはもう、夢のように激しくだ。湯船からは湯がざあざあと絶え間なく溢れていく。浴室全体が湯に浸かっているかのように。
 あなたはいまだかつて、そんな激しい源泉かけ流しを見たことがない。呆れたようにあなたはつぶやく。まるで源泉の洪水じゃないか……。
 
 

 
 
 いそいそと掛け湯をしてからあなたはその湯船にざぶんと浸かる。まさしくその瞬間だ。深い地底の煮えたぎるマグマの活力が湯を通してあなたの身体に確実に伝わってくる。しかし、それは決して荒々しいものではなく、身体を包み込むような“まろやかな活力”に変わっている。間接的に湯を介することで、さらには、その湯が百年近い時間をかけて大地の地層に濾されながら湧き上がってくることで、マグマの活力の凄まじい荒々しさも、あたかも川底の石が激流に削られて丸くなっていったかのように、まろやかになっている。あなたはそっと目を閉じて、そんな湯に浸かりながら地底の活力と身体全体で交流するのだ。まさしく名湯。ああ、もう言葉もいらない。marvelous!
 
 信じがたいような源泉かけ流しの湯を思う存分に堪能したあなたは、ふとタオルに目をやる。温泉旅館によくある旅館の名前が印刷された薄手のタオルだ。そこに書いてあった宣伝文句をまじまじと見て、あなたは思わず秘密を分かち合った共犯者のようにニヤリと笑う。そこにはこう書かれてあった。
 
 ココロどよめく源泉ドバドバかけ流し!福丸温泉旅館。
 
 
 
※このショートストーリーは、ひな研が理想とする温泉旅館をイメージして書かれた架空の物語です。
 
 
 


ひな研オリジナル温泉タオル「福丸温泉旅館のタオル」

 
ひな研が理想とする架空の温泉旅館「福丸温泉旅館のタオル」。色は情熱の赤。でも、意外とひなびた温泉にマッチするんです。片袖には福丸温泉旅館のキャッチフレーズ「ココロどよめくドバドバ源泉かけ流し!」。もう片方の袖にはひな研のロゴマークがさりげなく入っています。温泉地でこの赤タオルで気持ちを上げていきましょう!
 

 
 
 
仕様/サイズ:約34cm×88cm 色:赤 厚さ180匁 

さぁ、ひなびた温泉検定に
チャレンジしてみよう!

 
誰でも彼でも研究員になれるというわけにはいきません。やっぱり、ひなびた温泉を愛する人たちのコミュニティにしたいから、検定試験を設けました。温泉に関する50問の問題に答えてください。35問正解できればでひなびた温泉研究所研究員申し込みフォームへの案内ページが出てきます。また、制限時間の15分を過ぎると回答の途中でも検定が終わります。
でも、ふるいにかけること主目的ではないので何度でもチャレンジできますよ。答えがわからない問題をネットで調べて解答してもOKです。
 
研究員になるには検定試験合格と別途、入所費¥7,800(認定証、特典グッズなどの送料は別途)が必要です。年会費はかかりません。